青い窓枠、白い壁、光を受けた葉の緑。旅先で見た景色を、ふと家の中に置きたくなる日があります。マートルは、そんな明るい風景を思い浮かべながら楽しみたい、爽やかな葉の精油です。
売り場で見かける「グリーンマートル」と「レッドマートル」。どちらを選べばよいのか迷ったら、色の名前から一歩進んで、学名と成分の欄を見てみましょう。この記事では、マートルという植物と、一本ずつの精油の個性をつなぐ読み方を紹介します。香りとともに、自分の時間をゆっくり取り戻す午後へ。
マートル精油の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | マートル/Myrtle |
| 植物の和名 | ギンバイカ〈銀梅花〉 |
| 学名 | Myrtus communis L. |
| 科名 | フトモモ科(Myrtaceae) |
| 植物の分布 | 地中海地域を含み、マカロネシアからパキスタンに及ぶ原産域 |
| 抽出部位 | 葉・小枝など。製品表示で確認 |
| 抽出法 | 水蒸気蒸留 |
| 主な流通区分 | グリーンマートル、レッドマートルなど |
| 香りの手がかり | 爽やかなグリーン調、ハーバル、清涼感、ほのかな甘さ |
キュー王立植物園はMyrtus communisを受容名として掲載しています。日本ではギンバイカの名で親しまれ、東京都農林水産振興財団の植物紹介にも、白い花と葉の芳香が記されています。精油の名前だけでなく庭木としての姿を知ると、一本の瓶の向こうに植物が見えてきます。
白い花と、つやのある葉
英国王立園芸協会〈RHS〉は、つやのある濃緑色の葉を持つ常緑低木として紹介しています。白い花には多数の雄しべがあり、その後に紫黒色の実がつきます。花の華やかさに目が向きますが、精油として流通するのは葉や小枝を蒸留したものが中心です。花の写真から想像する香りと、実際の葉の精油を比べるのも面白い観察になります。
グリーンマートルとレッドマートル、どこを比べる?

まず、両方ともMyrtus communisとして流通する精油です。Green/Redという商品名と、植物学上の種名を分けて読みましょう。Kewに掲載される亜種の区分と、売り場の色名をそのまま一対一で結びつけるより、供給元が示す成分と産地を確認するほうが、手元の一本を具体的に理解できます。
| 確認する項目 | グリーンの製品例 | レッドの製品例 |
|---|---|---|
| 資料 | Oshadhi Green Myrtle | Oshadhi France Myrte rouge |
| 産地表示 | フランス〈コルシカ〉 | モロッコ |
| 抽出部位 | 小枝・葉 | 枝・葉 |
| 掲載される成分 | α-ピネン、1,8-シネオール、リモネン、酢酸ゲラニル、リナロールなど | 1,8-シネオール、α-ピネン、酢酸ミルテニル、リモネンなど |
| 比較の入口 | 爽やかさと葉の表情を確かめる | 酢酸ミルテニルの記載に注目する |
これは二つの製品資料を並べた表です。赤にも1,8-シネオールが記載され、緑と共通する成分があります。単純に「こちらにだけ入っている」と覚えるより、どの成分がどのくらい含まれるかをロット別の分析表で見ると、精油選びの解像度が上がります。
Pranarômは「シネオールのマートル」と「酢酸ミルテニルのマートル」という成分を前面に出した名称も使っています。初めて選ぶ方は、色名・産地・成分名の三つをメモしておくと、あとから別の製品と比較しやすくなります。
主要成分と、研究資料からわかること
グリーンマートルの資料で見かける1,8-シネオールやα-ピネン、レッドの資料で目を引く酢酸ミルテニル。名前を覚えたら、次は「成分は組み合わせで存在する」と考えてみましょう。
モロッコ産の精油を調べた研究
2006年のActa Botanica Gallicaに掲載された研究は、モロッコ産マートル精油と、その分別蒸留で得た画分をGC・GC/MSで分析しています。要旨に示された元の精油の主要成分は、1,8-シネオール43%、酢酸ミルテニル25%、α-ピネン10%です。
この数値は、その研究で調べた試料の組成です。シネオールと酢酸ミルテニルが同じ精油の中にまとまった割合で存在する例として読むと、流通名だけでは見えない面白さがわかります。手元の瓶の分析表と並べれば、産地やロットごとの香りの違いを考える入り口になります。
成分表を読む順番
- 学名、抽出部位、産地を先に確認する。
- 分析したロットや日付が、買う製品に対応しているかを見る。
- 1,8-シネオール、α-ピネン、酢酸ミルテニルなどを探す。
- 数字を見た後に香りを試し、感じた言葉を別の欄に書く。
分析表と試香メモは、違う角度から同じ一本を眺める道具です。「緑を感じる」「少し甘い」「清涼感の奥に丸さがある」。自分の言葉が増えるほど、次に合わせたい香りも選びやすくなります。
レモンマートルやハニーマートルとは別の植物
マートルの名がつく精油は、すべて同じ属ではありません。名前が似ているときこそ、学名が役立ちます。
| 精油 | 学名 | 辞典での読みどころ |
|---|---|---|
| 本記事のマートル | Myrtus communis | 葉の爽やかさと流通タイプ |
| レモンマートル | Backhousia citriodora | レモンを思わせる葉の香り |
| ハニーマートル | Melaleuca teretifolia | レモン調に重なる蜂蜜のような印象 |
| アニスマートル | Syzygium anisatum | アネトール型などの成分型と甘い香り |
同じ言葉を持つ香りを集めて、それぞれの植物をたどる。精油辞典ならではの、小さな世界旅行のような楽しみ方です。
爽やかな葉の香りを、少量から楽しむ
Oshadhiのグリーンマートルは、ユーカリを連想させる澄んだカンファー調の香りと説明されています。まずは試香紙で、シャープな印象と、その奥に感じるハーバルな表情を確かめてみましょう。
部屋では、精油に対応したストーンを受け皿に置き、1滴から。顔のすぐ近くに固定するより、少し離れた場所から感じる距離を探します。窓を開ける、香りの道具を用意する、しばらく休憩する。そんな順番にすると、いつもの部屋にも小さな場面転換が生まれます。
グリーンマートルを使う芳香ブレンド4選
以下は、爽やかなグリーンマートルを想定したオリジナル案です。合計5滴は原液ブレンドを作る配合比で、一度に部屋へ放出する量ではありません。小さな遮光瓶に合わせ、道具の説明に従ってその中から少量を使います。大人が空間で香りを楽しむための案として、肌用・飲用・入浴用とは分けてください。
1.青い窓の向こう
- グリーンマートル:1滴
- ベルガモット:3滴
- プチグレン:1滴
柑橘の明るさに、二つの葉の香りを重ねます。旅の写真を一枚選び、デスクに飾る午後に。清涼感を強めるより、柑橘の中から葉の表情が見える比率にしました。
2.白いカーテンと花の午後
- グリーンマートル:1滴
- 真正ラベンダー:3滴
- ゼラニウム:1滴
ハーバルな花を中心に、マートルを少量添える組み合わせ。花の柔らかさと葉の爽やかさを、一つずつ確かめながら楽しめます。いつものラベンダーから世界を広げたい方にも。
3.緑の中庭を思い浮かべて
- グリーンマートル:2滴
- スイートオレンジ:2滴
- フランキンセンス:1滴
マートルの存在感を少し前に出した案です。柑橘と樹脂を添えて、入口と余韻に違う表情をつくります。写真の中の景色を、色や香りの言葉に置き換えてみたくなる配合です。
4.旅の支度を終えた夜
- グリーンマートル:1滴
- マンダリン:2滴
- シダーウッド・バージニア:2滴
木の香りに柔らかな柑橘と葉を加えます。荷物を詰め終えて、明日の楽しみを一つ思い浮かべる時間に。旅に出ない日も、週末にしたいことを一つ選ぶきっかけになりそうです。
旅の記憶を一枚。回復の時間をつくる

スマートフォンに残った写真を、今日は一枚だけゆっくり眺めてみませんか。どんな光だったか、何色が好きだったか、どこでもう少し過ごしたかったか。思い出を整理するというより、自分が心地よいと感じた瞬間を選び直す時間です。
マートルの香りを添えるなら、写真やカードへ直接つけず、近くの専用道具で。naturaumの「回復」は、好きな景色や過ごし方へ戻る余白でもあります。爽やかな葉の香りを手がかりに、次の休日の楽しみを一つ見つけてみましょう。
購入・保管と、心地よく楽しむための確認
商品名に加えて、学名、抽出部位、産地、成分型や主要成分を確認します。グリーンからレッドへ変えるときも、同じ配合をそのまま再現するより、別の試香紙で新しい一本の個性を先に知ると、使い分けが楽しくなります。
保管は遮光瓶を密閉し、熱と直射日光を避け、開封日を記録。使うたびに少量を出し、使用後はキャップを閉めます。原液を肌や目・粘膜につけず、芳香には換気と休憩を組み込みましょう。
1,8-シネオールを含む精油なので、乳幼児の顔の近くで使う方法は避け、本記事の配合は大人の芳香用として扱います。妊娠・授乳中、治療中などの方は、製品の注意事項と専門家の助言を確認してから。子どもやペットが触れない場所に瓶と道具を置いてください。
マートル精油のよくある質問
「グリーン」「レッド」は液体の色で判別できますか?
購入時は、製品名・学名・成分資料で区別しましょう。見た目だけでタイプを決めず、供給元の説明とロット情報を確かめると、次も好きな一本を選びやすくなります。
レモンマートルと入れ替えて使えますか?
学名も香りの構成も異なる材料です。レシピを変えたいときは、それぞれを試香紙で比べてから新しい配合として考えましょう。名前の似た精油を学ぶよい機会にもなります。
植物を育てながら精油を楽しめますか?
ギンバイカの葉や花を観察し、精油の香りと結びつける楽しみ方があります。苗のラベルで学名を確かめ、栽培は地域の気候や園芸店の案内に合わせて。植物の姿と精油の両方から知ると、一本の背景が豊かになります。
次の香り探しは精油辞典へ。葉の爽やかさ、花の柔らかさ、木の余韻を知るほど、暮らしに似合う組み合わせが増えていきます。
参考資料
- Kew:Myrtus communis(分類・原産域)
- 東京都農林水産振興財団:ギンバイカ(和名・植物の特徴)
- RHS:Myrtus communis(植物の姿)
- Oshadhi:Green Myrtle(香調・産地・成分)
- Oshadhi France:Myrte rouge(赤の製品資料)
- Pranarôm:Myrte à cinéole/Myrte à acétate de myrtényle(成分による流通名)
- Farahほか:モロッコ産マートル精油の分別蒸留と成分分析(2006)(公開要旨の組成値)
- IFA:Aromatherapy with Children Guidelines(小児と1,8-シネオールの注意)
- Tisserand Institute:Safety Guidelines
資料確認:2026年9月。暮らしの提案と配合はnaturaum独自の編集です。

