香りを日々の刺激にする研究|高齢者の言語記憶と嗅覚トレーニングを読む

香りを比べるムエットとノートを並べた木のテーブル

香りを楽しむ時間には、どんな学びの可能性があるのでしょう。近年は、さまざまな香りへ繰り返し触れる「嗅覚トレーニング」や、日常の香りの刺激を豊かにする研究が行われています。

ここでは、高齢者を対象に香りと言語記憶などの関係を調べた原著論文を読みます。研究ごとに、参加した人、香りに触れる方法、評価した内容を並べると、興味深い結果の輪郭がはっきり見えてきます。

2023年:夜に香りへ触れる試験で、単語学習の成績に差

Wooらは、認知機能が正常な60〜85歳の43人を登録し、香りを提示する群と、ごく微量の香りを使う対照群へ無作為に分けました。介入は6か月間、毎晩2時間、7種類から一晩に1種類の香りを提示する方法です。

認知検査の解析は、感染症流行による施設閉鎖前に評価を終えた23人が対象でした。単語を繰り返し学ぶRAVLTの5回目の学習試行で、香り群と対照群の変化に有意差がありました(p=0.02)。主な成果は、この具体的な単語学習課題での改善です。研究が評価した範囲を、課題名と一緒に読むと理解が深まります。Wooらの原著論文(2023年)。

読書椅子のそばにアロマストーンを置いた夜の休息空間
夜の香りへの接触を調べた研究があります。写真は研究設備ではなく、休息空間を描いたAI生成画像です。

2018年:5か月のトレーニングで、嗅覚と言語機能を評価

別の試験では、50〜84歳の91人が検査を完了しました。参加者は、日々香りへ触れる60人と、日々数独を行う31人へ無作為に割り当てられ、5か月後に評価を受けました。

論文は、嗅覚トレーニング群で嗅覚機能の有意な改善、言語機能と主観的な幸福感の改善を報告しています。参加者に割り当てを隠さない研究で、比べる相手にも「数独」という日々の活動があったことが、設計上の特徴です。Olfactory training with older people(2018年)。

2025年:香りの好ましさと、言葉を出す課題

2025年の研究では、50〜85歳の128人を、好ましい香りでのトレーニング、不快な香りでのトレーニング、運動、いずれも行わない対照の4群へ無作為に分けました。研究では、両方の香り群で言語流暢性への好ましい効果が報告され、運動群でも言語流暢性の向上が見られました。

言語流暢性は、条件に合った言葉を挙げる能力をみる評価です。「好きな香りかどうか」だけでなく、嗅覚への刺激という視点から調べている点が、この研究の面白さです。香りの好ましさ、運動、言語流暢性を比べた原著論文(2025年)。

「記憶」という大きな言葉を、小さな課題へ分ける

記事やニュースで「記憶に効果」と見かけたら、何を覚え、どんな方法で測ったのかに注目してみましょう。単語の一覧を学ぶ課題、条件に合う言葉を出す課題、昔の出来事を思い出す課題。それぞれは、似ているようで違う問いを持っています。

原著論文を読むときには、結果の数字をひとつ覚えるより、「誰が、何を、どのくらい続け、何を測ったか」を一行で書いてみると便利です。研究の面白さを保ちながら、自分の言葉で説明できるようになります。

細い緑の葉が茂るローズマリー
植物の香りを知る楽しみと、香りを測る研究。二つの視点を行き来すると、学びが広がります。

次の研究で知りたいことを、問いにしてみる

紹介した研究からは、香りを日々の刺激として扱うという、興味深い視点が見えてきます。さらに知りたいのは、香りの種類をどう選ぶか、どんな提示方法が続けやすいか、生活の中でどんな評価を組み合わせるかということです。

論文は、完成した答えを受け取るだけでなく、次の問いを見つける読み物でもあります。参加者の年代や生活、評価方法まで思い描きながら読むと、香りの研究はぐっと身近になります。

naturaum lifeでは、研究の方法と結果を紹介する記事と、暮らしの中で香りを楽しむ記事を、それぞれの目的に合わせて届けています。香りと記憶のもうひとつの入口は、香りで思い出がよみがえるのはなぜ?|感情と記憶の研究から読む、懐かしさの体験。研究全体の案内は香りの研究を読んでみよう|気分・睡眠・認知課題を調べた四つの研究でご覧いただけます。