香りの説明を読むと、花や果実、木の名前がいくつも並んでいます。材料が違えば、できあがる香りも違う。そう思うのは自然なことですね。
ところが、共通する成分が一つもなくても、似た香りに感じられる組み合わせを示した研究があります。「嗅覚の白」と呼ばれるものです。鍵になるのは、成分の数だけでなく、それぞれの感じられる強さと、選ぶ成分の幅広さ。なぜ材料の一覧だけでは、香りの印象が決まらないのか。その面白さを見ていきましょう。
一つずつは違っても、重なると似てくる
2012年、Tali Weissらは、幅広い性質の香料成分を選び、それぞれを嗅いだときの強さがほぼそろうように調整しました。そのうえで、含める成分の種類を増やし、できた香りどうしがどのくらい似ているかを参加者に評価してもらいました。
すると、種類が増えるにつれて、共通成分のない組み合わせどうしでも、印象が近づいていきました。約30成分になると、多くの組み合わせが似た香りとして感じられたのです。原論文:PNAS/PMC
材料を一つずつ照らし合わせると、それぞれ違うものが使われています。それでも、全体として嗅ぐと似た印象が生まれる。ここが、この研究で注目したい発見です。
「白」は、共通する印象につけた名前
光には、異なる波長の組み合わせから白く見えるものがあります。音にも、幅広い周波数が重なったホワイトノイズがあります。研究者たちは、それらに似たことが香りでも起こるかを調べました。
「嗅覚」はにおいを感じる感覚。「嗅覚の白」の白は、条件をそろえて重ねた香りに生まれる、共通する印象を指します。複数の組み合わせに共通する香りの印象を、光や音になぞらえて「白」と名づけたのですね。

香りが近づいた、三つの条件
結果を理解するには、実験でそろえた条件も一緒に見る必要があります。
- 成分の種類を増やすこと。混ぜ合わせる成分の種類を少しずつ増やして比較しました。
- 感じられる強さをそろえること。成分ごとに濃度を調整し、人が嗅いだときの強さを近づけています。
- 幅広い性質の成分を選ぶこと。性質に広がりが出るように材料を選んでいます。
実験では、調整した成分から出る気体を重ね、参加者に香りを評価してもらいました。「約30」という数は、こうした材料と条件をそろえて得られた目安です。家庭で使う精油にはもともと複数の成分が含まれるため、日々のブレンドでは各製品の用途や使用量に沿って楽しみましょう。
似ている香りにも、違いは残る
研究では、全体の印象が近づいた香りどうしにも、嗅ぎ分けられる違いが残っていました。
たとえば、白いシャツを二枚並べると、同じ白でも、片方は少し黄みがかって見えることがありますね。これは香りの結果を説明するためのたとえですが、「同じ仲間に見える」と「違いがわかる」は両立します。香りにも、全体の親しみやすい印象と、細かな個性の両方があるのですね。

材料の名前と、香りの感想を分けてみる
この研究からわかるのは、材料が共通しているかどうかだけでは、香り全体の似かたを説明しきれないということです。どの成分を、どんな強さで組み合わせたかも関わります。
日々の香り選びでも、材料の説明と、実際に嗅いだ印象を別々に残してみると整理しやすそうです。ここからは、香り選びを楽しむための編集上の提案です。たとえば説明欄には「柑橘と木の香り」、感想欄には、自分がそう感じたなら「最初はみずみずしく、あとに木の印象が残る」と書き分けます。
材料の名前は、香りを知る手がかり。自分が好きかどうかは、全体を嗅いだときの感想として確かめる。次に香りを選ぶときは、この二つを分けてみてください。名前だけで想像した香りと、実際に受け取る印象の違いも、選ぶ楽しみの一つになります。
少数の精油を使った実際の調整方法は、ブレンドの比率や時間を見直す記事で紹介しています。
参照:Weiss, T.ほか(2012), PNAS 109(49), 19959–19964. DOI: 10.1073/pnas.1208110109。シャツのたとえと香り選びのメモは編集上の提案です。画像は記事の内容を身近に思い描くためのAI生成イメージです。

