歯科の待ち時間と香りの研究|ラベンダー群で低かった「その場の不安」の得点

リネンの上に並べたラベンダーの花と小さな精油瓶

予約の時間に着いて、順番を待つ。歯科の待合室という身近な場面でも、香りと気持ちの関係が研究されています。

2010年に公表された340人の試験では、ラベンダーの香りがある群で、香りのない群よりその時点の不安の得点が低いという結果が報告されました。どのように比較し、何を測ったのかを、原論文の情報からたどってみましょう。

340人が参加した、待ち時間の比較

Kritsidimaらの研究は、歯科の予約診療を待つ患者340人を対象にしたクラスター無作為化比較試験です。ラベンダーの香りがある条件と、香りがない条件で質問票による評価を行いました。クラスター無作為化とは、個人ごとではなく、集団を単位として条件を割り付ける方法です。

ここで注目したいのは、研究の場面が「歯科の待合室で、診療を待っている時間」と具体的に決まっていること。香りと気持ちを結び付けて読むときは、このように、誰がどこで体験したのかから入ると、研究の姿が見えやすくなります。Kritsidimaら、2010年の原論文抄録

香りを比べるムエットとノートを並べた木のテーブル
研究の対象者、比較条件、評価指標を整理して読むイメージ(AI生成)。

二つの質問票で、異なる不安を見た

評価の名前 調べたこと 報告された結果
STAI-6 測定した時点の不安 ラベンダー群の得点が対照群より有意に低かった(p<0.001)
MDAS 歯科受診に関する全般的な不安 両群の得点は同程度だった(p>0.05)

この研究で変化が示されたのは、待っているその場の不安です。二つの指標を並べると、同じ「不安」という言葉の中でも、研究者が対象を分けて測っていることがわかります。

「何に対する、いつの気持ちなのか」を見分けると、研究結果を短い言葉にまとめる場合にも、伝える内容が明確になります。

オレンジとラベンダーを比べた200人の研究もある

Lehrnerらが2005年に報告した研究では、18〜77歳の200人を、オレンジの香り、ラベンダーの香り、音楽、香りも音楽もない対照条件の四群に分けました。歯科処置を待つ間に、不安や気分などを評価しています。

対照条件と比べて、オレンジとラベンダーの両方で不安が低く、気分が良好だったと報告されています。香りの種類に加えて音楽の条件も置いた点は、待ち時間の環境を考える研究として興味深いところです。Lehrnerら、2005年の原論文抄録

オレンジの果実と果皮、小さな精油瓶を並べたイメージ
歯科の待ち時間の研究には、オレンジの香りを用いたものもあります。画像は植物のイメージ(AI生成)。

研究ごとの環境も、一緒に読む

その後、Toetらは三つの大きな歯科施設で219人を対象に、オレンジ、リンゴ、香りのない条件を比較しました。この2010年の研究では、不安や気分などの回答に、三群間の有意差は見られませんでした。Toetら、2010年の原論文抄録

こうした研究を並べると、香りの名前に加えて、施設の規模や環境、対象者、測定方法を見る意味がわかります。研究を読む楽しさは、一つの結論を覚えることに加え、「どのような場面で調べると、どんな違いが見えるのか」という次の問いが生まれることにもあります。

香りの研究を読むための、小さなメモ

気になる論文を見つけたら、次の四項目を一行ずつ書いてみましょう。

  1. 誰:参加した人数と、どんな場面の人か。
  2. 比較:香りの有無か、ほかの香りか、別の環境か。
  3. 指標:不安、気分、睡眠など、何をどう測ったか。
  4. 結果:どの指標に、どの群との違いがあったか。

この順番で整理すると、研究タイトルだけを読むときよりも、香りについて具体的に話せるようになります。今回なら「340人の歯科患者を調べた試験で、ラベンダー群は待ち時間の現在の不安得点が低かった」と表せます。

香りと過ごす時間を、研究からも知る

待ち時間のような短い場面へ目を向けた研究は、私たちが一日の中でどんな時間を過ごしているか、改めて考えるきっかけにもなります。香りを知る楽しみには、植物や香調だけでなく、こうした人の体験を調べる視点もあります。

別の場面を扱った論文は、気分・睡眠・認知課題を調べた香りの研究ガイドで紹介しています。

紹介した研究

  • Kritsidima M, Newton T, Asimakopoulou K. Community Dent Oral Epidemiol. 2010;38(1):83–87. DOI: 10.1111/j.1600-0528.2009.00511.x
  • Lehrner J, et al. Physiol Behav. 2005;86(1–2):92–95. DOI: 10.1016/j.physbeh.2005.06.031
  • Toet A, et al. Chemosens Percept. 2010;3(3–4):182–189. DOI: 10.1007/s12078-010-9078-9

研究紹介は公開された原論文の抄録に基づきます。画像は植物と読書・記録のイメージで、研究現場や使用製品の写真ではありません。編集更新:2026年9月24日。