好きな布を並べたり、久しぶりにレコードを選んだり。何かを完成させるためではなく、ただ自分の好みに触れる時間を持ちたい日があります。そんな場面に、いつもの柑橘や木の香りへ少しだけ甘い表情を加えるなら、アニスマートルという精油を知ってみませんか。
香りの入り口は、アニスやリコリスを思わせる独特の甘さ。原料はオーストラリアの樹木の葉です。よく似た香りを持つ植物との違いから、成分型、少量で組み立てるブレンドまで、一本の個性をたどります。
アニスマートル精油の基本情報
| 名前 | アニスマートル/アニシードマートル/Anise Myrtle |
|---|---|
| 学名 | Syzygium anisatum (Vickery) Craven & Biffin |
| 以前の学名 | Backhousia anisata、Anetholea anisata |
| 科 | フトモモ科 |
| 原産域 | オーストラリア、ニューサウスウェールズ州北東部 |
| 抽出部位・方法 | 葉、製品によって小枝を含む。水蒸気蒸留 |
| この記事の対象 | アネトールを主成分とする型の芳香用精油 |
| 香りの手がかり | アニス、リコリス、甘いハーブを連想する香り |
現在の学名と原産域は、英国王立植物園キューのデータベースで確認できます。クイーンズランド州の研究アーカイブには、以前の学名と、葉から水蒸気蒸留で精油を得ることが整理されています。古い本や商品ラベルで別の属名に出会ったら、まず異名の関係を照らし合わせてみましょう。[Kew] [DPI研究アーカイブ]
葉の香りを育て、蒸留する
アニスマートルは、植物としての葉の利用と、蒸留した精油の利用という二つの面を持っています。RIRDCの産業資料では、ニューサウスウェールズ州北部などでの栽培や、葉を収穫して加工する取り組みが紹介されています。精油を選ぶときも、原料がどこで育ち、どの部位を蒸留したかまでたどると、香りの背景を立体的に楽しめます。[RIRDC:Anise Myrtle]
アニス、スターアニスとは別の植物
香りの名前に「アニス」が入っていても、原料が同じとは限りません。比較するときは、瓶の大きな商品名だけでなく、小さく書かれた学名を見てください。
| 呼び名 | 学名 | 区別するポイント |
|---|---|---|
| アニスマートル | Syzygium anisatum | オーストラリアの樹木。葉などを蒸留する |
| アニス/アニシード | Pimpinella anisum | アニスマートルとは別の原料植物 |
| スターアニス/八角 | Illicium verum | アニスともアニスマートルとも異なる植物 |
米国化学会は、アニス、スターアニス、フェンネルの精油に共通する主要成分としてアネトールを紹介しています。植物の種類が離れていても、香りに共通する手がかりがある。このつながりを見つけると、精油辞典が単なる名前の一覧から、香りを横断して読む本に変わります。[ACS:Anethole]
アネトール型を、成分資料と一緒に選ぶ
アニスマートルを詳しく知るとき、学名の次に確認したいのが成分型です。供給者Down Under Enterprisesの資料には、(E)-アネトールが多い型と、メチルチャビコールが多い型が記載されています。メチルチャビコールはエストラゴールとも呼ばれます。この記事の香りの設計は、前者のアネトール型を対象にしています。[供給者のモノグラフ]
EとZ、主成分と少量成分
アネトールの前に付く(E)と(Z)は、分子の構造の違いを示す表記です。成分表ではそれぞれtrans、cisと併記されることがあります。Essentially Australiaが示す一つの典型例には、(E)-アネトール87.61%、(Z)-アネトール0.57%、エストラゴール5.76%が載っています。表を読むときは「アネトール」という文字だけでなく、前の記号まで見てみましょう。[製品の成分例]
これは一社が示した例で、すべての瓶に同じ数字が当てはまるものではありません。購入するロットの分析資料があれば、主成分、ほかの成分、抽出部位を並べて記録します。「高い数字だからよい」と順位を付けるより、気に入った香りの情報を残すために使うと、次の一本を選ぶ楽しさにつながります。

甘さの「形」を言葉にしてみる
アニスマートルの香りを観察するときは、甘さをひとつの言葉で終わらせず、「丸い」「細く伸びる」「冷たい印象がある」など、形や温度の言葉へ置き換えてみませんか。リコリスに馴染みがなくても、自分が知っているお菓子やハーブ、布の色を思い浮かべて構いません。
試香紙へごく少量を取り、鼻から離して確かめます。第一印象を一語書いたら、いったん香りのない空気へ。数分後にもう一語、さらに時間を置いて一語。最初から長い文章にするより、三つの言葉だけのほうが、あとで違いを見比べやすくなります。
柑橘の精油と比べるなら、まず別々の紙で。次に二本の試香紙を少し離して持ち、アニスマートルの紙を遠ざけながら、好みの重なり方を探します。いきなり瓶の中で混ぜる前に、距離を使って香りの役割を考える練習になります。
自分の好きに戻る、短い芳香の時間
この精油は、甘い香りを強く広げるより、いつもの香りに小さなアクセントを置く使い方から。精油に対応した芳香器の説明を読み、少量・短時間で香りを確かめます。趣味の材料を並べる前や、好きな曲を一曲選んだときなど、自分のための時間に区切りをつくってみてください。
香りと一緒に部屋の色を眺めるのも楽しい方法です。紫の布、あたたかな黄色、窓の青。どの色と合わせると今日の気分に近いでしょうか。何かを達成するために使うのではなく、好きなものを選ぶ余白を持つこと。それがnaturaumの考える「回復する時間」のひとつです。
この精油を楽しむ前に
アネトールを多く含む精油には、使う人の条件に応じた確認が必要です。妊娠中・授乳中や乳幼児には使用を控え、ホルモンに関わる疾患、出血しやすい状態、抗凝固薬の使用、手術予定などがある場合は、使用前に医師・薬剤師へ確認してください。供給者のEssentially Australiaも妊娠中の使用を避ける案内をしています。ここでは健康な成人が個人の空間で楽しむ芳香用の配合を紹介します。
精油は飲用せず、原液を肌に塗ったり、浴槽へ直接入れたりしません。同席する人やペットがいる場所では使用条件を確認し、換気と香りを止める時間を組み合わせます。使う前に製品表示を読むことも、好きな香りを長く楽しむ習慣にしておきましょう。

少量をアクセントにするブレンド4選
以下はnaturaum独自の芳香用配合案です。アネトール型のアニスマートルを1に対し、ほかの精油を合計9とする設計。合計10滴は試作するブレンドの比率で、一度に芳香器へ入れる量ではありません。精油用の小さな遮光容器で混ぜ、対応する芳香器の規定内で、その中からごく少量を使います。肌・入浴・飲食用の処方ではありません。
1.布を選ぶ午後
アニスマートル1滴+スイートオレンジ6滴+フランキンセンス3滴。親しみやすい柑橘を中心に、甘いアニス調を添える案です。お気に入りの布や紙を並べる時間に、軽やかな色合わせをイメージしてみましょう。
2.木の机と甘い余韻
アニスマートル1滴+シダーウッド4滴+スイートオレンジ5滴。木の香りを背景に、柑橘とアニス調がどう重なるかを観察する配合。最初と時間を置いた後の試香紙を比べると、好みの余韻を探せます。
3.花の香りに、ひとさじの個性
アニスマートル1滴+真正ラベンダー6滴+ゼラニウム3滴。花とハーブの香りを主役にする案です。甘さをもっと控えたいときは、アニスマートルを足さず、ラベンダーの比率を増やした別の小さな試作で比較します。
4.一曲を楽しむ夜
アニスマートル1滴+マンダリン6滴+フランキンセンス3滴。夜の音楽の時間をイメージした配合。香りを出し続けるのではなく、短い芳香の後は音楽そのものを楽しむ時間へ。香りを止めた後の部屋の印象も記録してみてください。
選び方・保管・よくある質問
ラベルに古い学名が書かれていても同じ?
Backhousia anisataやAnetholea anisataは、現在のSyzygium anisatumと結び付く以前の名前です。学名だけで判断を終えず、成分型、部位、蒸留方法、原産地、ロット情報も確認すると、選ぼうとしている一本を具体的に理解できます。
甘い香りなら、食用にも使える?
この記事は芳香用精油の案内です。食品として流通する葉や、食品向けに管理される香料とは、購入時に確認する区分が異なります。暮らしで香りを楽しむ瓶は芳香用として管理し、飲み物や料理へ加えません。
どう保管すると管理しやすい?
開封日と用途をラベルに記し、キャップをしっかり閉めて、日光と高温を避けます。メーカーの保管条件と期限を優先し、子どもやペットが触れない場所を定位置に。ブレンドの瓶には、精油名、比率、作成日も残しておきましょう。
柑橘調の珍しい精油も気になったら、ハニーマートルやレモンティートリーへ。精油辞典の一覧から、次に比べたい香りを探せます。
参考資料
- Kew:Syzygium anisatum
- DPI:Anise Myrtle Oils
- RIRDC:Anise Myrtle(栽培・原料の資料)
- Down Under Enterprises:Anise Myrtle(成分型)
- Essentially Australia:Anise Myrtle Essential Oil(製品・分析例・取り扱い)
- ACS:Anethole
- Stillpoint Aromatics:Anise Seed Myrtle(Tisserand & Youngを参照した使用条件)
資料確認:2026年9月。記事と配合案は独自に構成しています。写真は暮らしの場面を描くAI生成イメージで、植物同定や実在商品の紹介写真ではありません。

